良い塾講師=わかりやすい+楽しい+α(アルファ)

最初に

 塾講師なら「わかりやすく、楽しい授業」を目指していると思います。
保護者の方も、そうあってほしいと願って入塾されると思います。
しかし、多くの保護者は「わかりやすく、楽しい授業」の前に「学力を上げてほしい、学校の成績を上げてほしい。」と思って、入塾させるのです。タイトルのα(アルファ)は正にこれです

 プロの塾講師ならばそれは分かっている筈なのに「わかりやすく、楽しい授業」ができると、それで満足する落し穴に落ちてしまい、子どもの学力を見てみぬふりをする本末転倒な自己満足に陥るのです。

 分かりやすく説明して、「あっ!そうか!」と生徒に言わせると、塾講師は心底嬉しくなりますね。
 しかし、身も蓋もありませんが、プロの塾講師なら「分かりやすく説明」するのが当たり前です。
 最低ラインの素養と、日々の努力と経験は必要ですが、本来教えるのが好きな人種が塾講師をしているはずなので、ここをクリアしていない塾講師はいないと信じたいです。

 自分の一言でクラスが笑いに包まれ、授業が盛り上がるのはどうでしょう。授業が終わり塾を出る時、お迎えのお母さんに、「今日の授業、すっごく楽しかったよ、お母さん!」と言われれば、塾講師ならニヤリとしてしまいます。

 では。楽しい授業は簡単にできるのかと聞かれると、笑いのセンスと、演技力、空気を読む能力などいくつかの才能が必要なので、誰にでもできるわけではありません。しかし、自分の個性に合った演出は必ず存在しているようで、何年か継続できた塾講師は、自分のスタイルを見つけて、生徒を沸かせているのはよくあることです。

 もう一度繰り返します。保護者の本当の入塾理由は「学力を上げてほしい、学校の成績を上げてほしい。」なのです。

これは、誰にでもできるのでしょうか?

 「わかりやすく、楽しい授業」を作り上げるのは、塾講師にとって、大変な作業であっても、嫌な作業ではありません。では、「学力を上げたり、学校の成績を上げたり」するのはどうでしょうか?それは、一時のノリではなく、冷静に計画的に仕組まなければならない作業なのです。「夢の実現にはその夢と同じ絶対値のリアリティが必要なのです。」

 良い塾講師であるためには、ここで逃げることはできないのです。いくら子どもと仲良くなって、塾に喜んできてくれていても、学力が上がらなければ退塾することが多いのです。塾講師はこの一点においては「言い訳はできない」のです。

 では、ここからあと塾講師はどのようにスキルを上げなければいけないのでしょうか。そこを、少し深堀していきたいと思います。

 塾講師の卵の方、まだ、生徒の学力を上げ切れていない塾講師はもちろんのこと、塾に子供を通わせている親御さんにも知っておいていただきたい内容だと思います。是非、最後までお付き合いください。

わかりやすい授業とは

 私は、小学校受験科の算数と理科の講師でした。ただ、教科が違っても分かりやすさのエッセンスは同じだと思いますので、一応理科の授業をするときの具体的な流れや、授業を分かりやすくする工夫などを書きます。

1.簡単な「タイムテーブル」を作る

 私は塾講師になりたての頃、タイムテーブルを作らず、やることだけ決めて、調子に乗ってその日のノリで、授業をしていたので、世間話に花を咲かせてしまって、大切な部分の説明が不十分だったりと、散々な経験があります。

<50分×2コマの授業の場合の例>
始まりの挨拶 >>>出席+宿題チェック(5分) >>> 関連単元の復習(10分) >>> 新単元の導入(前半)+例題(35分) >>> 休憩(5分) >>> 新単元の導入(後半)+例題(25分) >>> 練習問題演習+解説(20分) >>> 宿題の提示(5分) >>> 終わりの挨拶

 単元によって、導入や演習の時間は変動します。上の例では難しい単元なので、導入に時間をかけた場合の例です。

2.授業の流れに合った「まくら」を準備する。

 落語では冒頭で、その日の演目に関係のある世間話や、話の途中に出てくる現代には見られない風習などをさりげなく説明します。この小噺のことを「まくら」と呼び、落語の世界に自然に入ってもらうための大切な役割を担っています。

 塾の授業でもこの「まくら」にあたる冒頭の世間話や、その単元に関係した復習単元の話などは、授業を盛り上げていくために大切な働きをします。
 慣れてくれば、生徒の様子や、授業前の生徒のおしゃべりから「まくら」を即興で準備できますが、慣れないうちは大雑把な内容は決めておいた方が無難です。

3.導入と例題を研究する

 この部分は教科によって異なる部分があるかもしれません。自分の教科に置き換えてください。
 理科や算数では過去に習った単元のレベルアップ単元だったり、初めて習う単元だったりします。
 過去に習った単元のレベルアップ版の場合には、過去の単元の復習からスタートした方がつながりがいいと思います。
 初めての単元の場合も、参考になる単元はあるものです。その単元の復習を入れるとスムーズに導入できます。どの単元を参考にするかは講師の腕にかかっています。
 私は教材の例題を使って導入をすることもありますが、半分程度です。残りの半分は例題の前にちょっと面白げな例題を自分で作ります。これも、例題を使った方が分かりやすい場合は無理やり自作にはしませんが、自分の中で教材の例題が面白くないと思う場合には自分を信じて自作にします。

 私が使っている教材は例題の下に説明がついている教材なので、その説明を生徒に見せたくありません。そこで、教材をスキャンして例題の問題部分だけの「例題説明プリント」を作っていました。そして、その空白部分に生徒は私の説明を書いてプリントが仕上がります。
 生徒は自宅に帰ってからその仕上げたプリントと本来の教材の説明を見比べることになるはずです。そこも計算しておく必要があります。教材と全く同じ説明だった場合、生徒は「なーんだ!」となります。なので、授業での説明はあえて自分なりのオリジナリティが出る説明にしたり、解き方を何通りか書いたりと、生徒に見透かされるのを防ぐ工夫をします。こういう工夫は授業全体でとても大切です。

 また、その日のうちには時間の都合で解かない応用問題も、必ず授業前に解いておかなければなりません。生徒が自宅で宿題に取り掛かり、その難所に差し掛かった時、それを見越した説明を授業中にしてあれば、「さすが先生!」と株が上がります。つまり、授業でやらない問題も解いておかなければなりません

 導入の板書はとても重要です。私が担当の理科と算数では、視覚に訴える板書を心がけています。私はお世辞にも字がきれいとは言えませんが、図だけはフリーハンドできれいに書けるように練習します。また、絵が上手なわけではありませんが、生徒の印象に残る可愛いキャラクターを入れたり、イメージに訴えかけるような色使いを心掛けています。

 授業は一方通行になってはいけません。生徒を巻き込んで盛り上げた方がうまくいきます。説明の途中で、「〇〇君なら、どんな動物が今後生き残ると思う?」という風に、みんながノートを書くのだけに神経を集中し過ぎないように、導入の内容に引き戻します。また、「もしかしたら先生に当てられるかもしれない!」という緊張感を演出したほうが生徒を引き付けることができます。塾だとさすがに本物のアクティブラーニングまでは、時間の都合でできませんが、生徒を巻き込むというところまでなら可能です。

 授業中や、授業後に生徒から質問が出ることもよくあることです。講師はどのような質問が出るかを予想しておく必要があります

 例えば、「春の七草」の種類を説明するとき、もしかすると「先生、秋の七草ってなんですか?」という質問が出るかもしれないので、秋の七草を調べておきます。できるなら「秋の七草の覚え方を知ってるか?」と、もう一歩先まで準備をしておけば「さすが先生!」となります。

 しかし、予想もつかない質問が出ることは覚悟しておいた方がいいと思います。「先生!夏の七草と冬の七草はないのですか?」もし、分からない質問が出た場合は分かったふりは生徒に見透かされます。その場でスマホで調べるか、休み時間中に調べて回答するかしてください。その質問をその日のうちに処理しなければ、生徒の信用を失います。

<楽しい授業とは>

 自分が生徒だった時、「どのような授業を楽しいと思ったのだろう?」と思い出してみてください。
 実は、「楽しい授業」というのは人によってかなり違うのではないでしょうか。そこで、長い塾経験の中で、いろいろな先生の授業を拝見させていただきました。塾講師は独自の授業展開、独自の盛り上げスキルをもっていますが、何種類かのタイプに分けることができると思います。私が分類した典型的な盛り上げスキル(講師のタイプ)をご紹介します。

ケース1)生徒との距離を縮めることで「親しみのある先生」として授業を展開します。生徒の距離の縮め方は、自分の恋愛経験を語ったり、生徒の興味のある歌手や、新しいテレビゲームなどの話をあえてします。
 このケースの欠点は、生徒との距離が近くなりすぎた時、収拾がつかなくなることです。

ケース2)脱線した話の内容が芸人並みに可笑しく、授業とは関係のないところで盛り上げて、楽しい授業を演出する。
 このケースの欠点は、生徒の頭に残るのが授業の本筋ではなく、脱線した内容であること。また、本来の授業の内容を説明する時間が足りなくなる傾向にあります。

ケース3)授業の内容に関係した面白話で授業を盛り上げるタイプ。できるならば、世間話・四方山話で盛り上げるのを潔しとしない。そして、授業の内容の面白話が印象に残るので、生徒の学力は上がる。
 このケースの欠点は、頑ななタイプが多く、盛り上がらなかったときに臨機応変に対応できない。

ケース4)授業の内容を工夫した正統派の説明。しかし、他の先生が同じことを説明すると全然面白くないのに、この先生は「間」「表情」「話す速度の緩急」などの話術に長けているので、生徒が引き込まれてしまう。しかも、かなり受ける。その上、生徒の頭に授業の内容がしっかり残る。
 つまり、一流の話術を持った天才です。
しかし、このケースの欠点は、後輩が育たない。

 生徒に楽しい授業と思わせるテクニックは実はその人の「人柄」「人生観」「話術」などいろいろな要素の上に成り立っているものなので、この方法がベストですとは言いにくいのです。それでも、長年塾講師をしているうちに自分にとってやりやすい方法に行きつくのです。そして、それで生徒が楽しいと感じてくれれば問題なしです。

<アルファ=学力を上げる授業>

 冒頭でも書きましたように、「学力・学校の成績を上げる授業」は塾講師にとっては一番難しいと思っています。当たり前ですが塾講師は「教えるのが好きな人」がなる職業です。そういう人は、授業で生徒が盛り上がり、「先生今日の授業、超わかった!」などと言われれば、ニコニコして満足するのです。私もそのタイプなので、それを非難できないのですが、塾講師には「成績を上げる(学力を上げる)」という、絶対的な使命があるのです。

 親御さんの中には、「やる気のなかった子が、この塾に入ってから家で勉強するようになりました。」と感謝する方もいらっしゃるかもしれません。そして、当然これは誇ってもいいことです。モチベーションを上げるという役目をちゃんと果たしたのですから。しかし、もしやる気になってから1年間成績が上がらなかったら、どうなるでしょう。たぶん、高い確率で他の塾を選ぶと思います。

 では、学力を上げる授業とはどのような授業でしょうか。
 まず断っておかなければならないのは、前述の「分かりやすい授業」「楽しい授業」を崩す必要はないのです。「こいつは何を言ってるんだ?」と怒られそうですが、直さなければいけないのは「その部分ではない」のです。

学力を上げるために、具体的にしなければならない事

 以下の方法は私がある地方都市の受験科で、実際に実行していたことです。
 この方法で、確実に学力を上げていました。私の教え子たちは、毎年のように、四谷大塚の「全国統一小学生テスト」で全国大会に進出したり、灘中・東大寺学園中・西大和学園中・神戸女学院中・鹿児島ラ・サール中など難関中学に合格していました。

自分の個性に合った方法にアレンジしてください。

1.必ず授業中に、前回の内容のチェックテストをします。

 自分で作る必要はありません。塾で使っている教材の「復習問題」「チェック問題」などを残しておいて、必ずそれをチェックテストに使うと生徒に宣言しておきます。そして、必ず実施してください

 長続きさせたければ、無駄に手間がかかることをしないように心がけてください。自分で作るというのは自己満足に過ぎません。そして、このテストで60点未満(問題の質によって変えます)だった場合は、授業の後に補習に残すことができれば、なおいいと思います。

2.宿題を忘れた場合は、残してやらせます。

 宿題が形骸化するのが最も学力に悪い影響があります。例えば、小6受験科で50分×4コマ×週3回で4教科とすると、演習時間がほとんど取れないレベルです。宿題を全部仕上げてやっと演習時間が足ります。つまり、宿題忘れを見逃しては演習不足で成績は上がらないのです。週5日も授業があれば、演習もある程度こなせるので、宿題量はぐっと減らせますが、首都圏など受験熱が高い地域以外は親御さんが週5日に、二の足を踏むと思います。

3.生徒がやるべきことを明確に示す。

1)年間のロードマップ(生徒別)を作ります。

 そのロードマップの中身は、1年間の塾での授業カリキュラム。自宅学習でこなす問題集と期限。講習会の時の教材と宿題。・・・。つまり生徒と親御さんが1年間何をすればいいのか具体的に理解できるようにしておくのです。
私は、この年間の問題集の期限などは生徒と個人面談で決めていました。

2)月間ロードマップを月初めに渡します。

 年間のロードマップをより具体的にします。年間ロードマップの進捗が予定より遅れている場合は、生徒に月間ロードマップを渡すときに、ちゃんと伝えます。
 特に、夏休み期間中などは生徒の旅行の日程、自習に来る日、塾の休校日に自宅ですべきことなども入れます。

3)ホームルームを定期的に実施する。

 ホームルームとは学年ごと(受験学年はクラスごとのこともある)に実施する「生徒用の説明会」です。内容は保護者会の内容とほぼ同じにするのがポイント。

 保護者会の内容は、その地域の受験事情。受験生のすべきこと。今後の高校入試、大学入試の実情。文科省の新教育改革の説明・・・などの説明をします。

 全く同じではありませんが、ほぼ同じパワポを使って2時間ほど時間をかけてホームルームを実施します。この時間はかなり重要です。ホームルームを年に2~3回すると、頑張らなければならない理由が徐々に生徒の脳に浸みこんでいきます。

 生徒に何かを伝えたいとき、どんなにうまく説明しても、1回で伝えるのはやめた方がいいと思います。何回かに分けて、確実に刷り込むのです。例えば、「カンニングはなぜよくないか」「中学受験をすると、なぜ得をするか」「受験で合格しても、有頂天になってはいけない理由」などは、2年がかりで生徒に伝えるような内容だと思っています。具体的には、ホームルーム以外でも、通常授業の途中の四方山話の中に盛り込むようにしています。
 
 ※ロードマップ=学習計画表

4.生徒の成績に神経質になる

 私の教えていた塾では、週末に1週間の内容のテストを全国規模で実施していました。結果はインターネット経由で生徒・保護者も講師も見ることができます。つまり、どの単元ができていたか、いなかったかの結果を全生徒分一覧できたのです。これは毎週のことなので、特に問題があったり、非常に頑張っていた場合には声掛けをするように心がけていました。

 こういう声掛けはとても大切です。「今回は頑張って高得点を取ったのに、先生は何も言わなかった」というのは、生徒にとってとてもショックなことです。モチベーションがさがります。

 逆に「今回の単元難しかったのに、前回より10点も上がってたな、よく頑張った!」と声掛けされた生徒は、先生が自分をちゃんと見てくれていて、嬉しくなるとともに、いつも見られているから手が抜けないなと思うのです。生徒の成績を上げるためには、テストの得点をいつも気に掛けることがとても大切なのです。

5.塾の勉強に家族を巻き込む

 例えば、先ほどのロードマップにしても生徒と先生だけが知っているのでは不十分なのです。親御さんもその存在を知っていなければならないのです。親御さんが知っていて初めて、子どもが予定のどこまで進捗しているかということに、興味を持ってもらえます。興味を持ってもらえたなら、御家庭を巻き込んだことになります。中学受験は家族受験なのです。

最後に

 いかがだったでしょうか。生徒が喜んで「わからなかったことが分かった!」と言って帰っていったのだから、それでいいじゃないかと思いたい気持ちはわかります。

 しかし、それでは保護者が塾に望んでいることと、ずれているのです。保護者は最終的に「学力が上がったか?」「学校の成績が上がったか?」でその塾を判断します。たとえ、「勉強嫌いがなくなった。」とか「自宅での学習習慣がついた。」などと感謝されたとしても、それだけでは保護者の希望を叶えたことにはならない事を肝に銘じてほしいと思います。

 思い出したこと:ずいぶん昔になりますが、私が東京で塾講師をしていたとき、小学3年生から、6年間塾で預かっていた双子の女の子がいました。そのくらい長い時間を過ごしたので、わが子と言ってもいいような関係と思っていました。
 しかし、一人の女の子の成績が落ちてきたということで、電話一本で、二人とも駅前の大手の塾に移りました。

(take_futa)

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